若手の定着・育成は世代理解と管理職の意識変革から
人事コンサルタント 菅谷 明音
労働市場では採用難と人材不足が続いており、若手社員を定着させ、自社の人材マネジメント方針に沿ってどのように育てていくかは、企業にとって喫緊の課題となっています。
近年では、おおよそ2010年代後半頃以降に社会人となった、「Z世代」と呼ばれる世代-デジタルネイティブ、ITリテラシーが高く、SNSを介しての情報収集/発信/繋がりを得意とする世代-がどのような価値観をもち、どのように仕事に向き合っているのかに関して様々な調査や議論が盛んになっています。
これは、企業が「Z世代」を含む若手社員の特徴を捉えることで定着と育成に役立てたいという思いを反映しているのでしょう。
「○○世代」と括っても、当然すべての人に特徴が当てはまるわけではありませんが、社会構造は常に流動的であり、映し鏡のように世代通年的価値観は一定のまとまった形を成しながら常に変化しているというのは言わずもがなでしょう。「古代の壁画に『最近の若いものは』という愚痴が書かれていた」という話があるぐらい、普遍的な悩みです。このような分類と、特定の時期における社会の変化に適応しながら成長してきた人々の生き方や価値観を理解することは、自身とは異なる世代と目的を一にして協働していくための重要な手段の一つです。
当社のクライアントでも、全体として入社1~2年目の社員の退職率が上昇傾向にあり、また上司世代から若手世代に対するコミュニケーションの不安定さ、その企業の理念に基づいた育成マインドが通じなくなりつつあるという課題を抱えている企業がありました。
このクライアントでは毎年テーマを変えて管理職研修を実施していましたが、今年は主任クラスから部長クラスまでの幅広い管理職層を集め、「自社のZ世代」にフォーカスし、「若手が長く働ける職場作り」と「若い世代の特徴や仕事観を踏まえ、どのように理念を浸透させていくか」を目的とした研修を行っています。
その中の第一部として、弊社から一般論としてのZ世代の仕事観や会社に対する期待、得手不得手、それらを形成してきた幼少期から社会に出るまでの社会的背景について講義をさせていただきました。
それをインプットした上で、自社の業種や職種の特性を踏まえた現場におけるZ世代への指導、コミュニケーションの現状(as is)を共有・把握し、若手が長く働けるために、自社のマインドを浸透させながら育成するために(to be)、どのようなアクションが考えられるのか?ということを、30代から50代までの、そこにいる中でもいくつかの“別世代”に分類され得る幅広い年代の管理職層がディスカッションし共有するというのは、貴重で意義のあるワークだったのではないかと思います。
就労する上で、私たちにとって重要なのは「安心感」・「安定感」・「自己肯定感」・「自己実現機会」であり、これはどの世代であってもおそらく不変でしょう。しかし、何に対して、また何をすれば、「安心感」・「安定感」・「自己肯定感」・「自己実現機会」を感じるかの認識はかなり異なる、と言えるくらい、現在の管理職層と若手層とでは過ごしてきた時代背景や環境に大きなギャップがあるのが現実です。
これを紐解き、管理職層にとって自身の中の「当たり前」は他の世代の当たり前と異なるかもしれない、という気づきを得てもらうことが、若手社員を定着させ、育成していくことへの第一歩です。