これからの採用戦略に欠かせない“男性育休という指標”
人事コンサルタント 菅谷 明音
新型コロナウイルスの感染拡大により大きく低下した有効求人倍率ですが、厚生労働省が公表した令和4年1月分の一般職業紹介状況を見ると、全国では1.20倍、最高の都道府県では2倍近くと急速な回復を示唆する状況となっています。
欲しい人材がなかなか採用できず腐心している企業も多いと思いますが、今回は男性の育児休業取得推進が採用戦略としても有効であるという点に触れたいと思います。
男性の育児休業推進に力を入れている積水ハウス社が作成した、男性育休白書2021の中でのインターネット調査結果では、400人の就活生のうち7割以上が、男性の育休制度に注力している企業を選びたいと回答しています。また別のデータで、日本生産性本部の調査では、新入社員の男性8割が育児休業を取りたいと回答したという結果もあります。
ほとんどの企業が横並びで低いときにはそこまで採用に影響しなかった「男性育休取得状況」というものが、今後取得を推進している企業とそうでない企業の二極化が進んでいくことで、就活生や転職者にとっては応募企業を選択する際の一つの指標になると言えます。
特に若い世代の視点では、男性育休の拡充が遅れていることは「経営層の考え方や企業体質が古そう」「従業員のライフを蔑ろにしている」と捉えられてしまう副次的なマイナス要素さえあるのです。
コロナ禍を経て、ビジネス環境もワークスタイルも大きく変わった今、「古い」と思われてしまうことは、人材獲得競争において不利になります。
逆に言えば、企業として男性の育休取得を推進する姿勢や実績は、育休が取れるという事だけでなく企業イメージ自体に好影響であり、競争優位にはたらく可能性が高いのです。もちろん、採用戦略という側面からは取得率だけでなく平均取得日数の指標も重要となることはいうまでもありません。
他方で資本市場に目を向けると、世界的な潮流として、非財務情報であるESG(環境・社会・ガバナンス)情報を投資判断に組み込み長期的な投資リターンの向上を目指す、いわゆるESG経営が浸透してきています。
ESGの指標として男性の育児休業取得率や平均取得日数に注目が集まることでこれらの情報開示を行う企業も増えており、投資家の目線ではもちろんですが、こうして可視化された社会的責任への取り組み度合いは、特に若い世代の採用応募者の間で重要視される傾向が高まっています。
来年4月からは従業員1001人以上の企業へ男性の育児休業取得率の公表が義務付けられ、この動きはより強まることが見込まれます。
労働力人口の減少とも相まって、大中小様々な規模の企業が入り混じった人材の獲得競争が激化する中で採用力を強化するためには、こうした企業価値基準の変容を捉え、変化に対応していくことが極めて重要です。
男性育休黎明期である現在は、そのための大きなチャンスとなるかもしれません。