収入減少率から見る男性育休の選択肢
人事コンサルタント 菅谷 明音
「男性の育児休業取得率向上のための改正法」ともいえる、改正育児・介護休業法が成立しました。これにより2022年10月(予定)から施行される出生後育児休業制度(いわゆる男性版産休)は、一時は義務化まで議論された肝煎りの制度です。
男性版産休は、既存の育児休業制度に加え、子の出生後8週間以内に分割して2回、通算4週間の育児休業の取得を可能とするもので、申し出は希望日の2週間前までに行えばよく、育休中も本人と合意すれば一定の範囲内で就労させて良い(通常の1歳までの育児休業は原則就労不可)など、男性が育児休業を取得するにあたっての労使双方のハードルを下げる狙いがあります。
さて、男性の育児休業取得率がなかなか上がらない理由は何でしょうか。内閣府が今年6月に発表した「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、既婚の20・30代男性の42.2%が、育休取得を希望しないと回答し、その理由は以下のようになっています。
・職場に迷惑をかけたくない ・・・・・・・・ 42.35 %
・収入が減少してしまう ・・・・・・・・・・ 34.0%
・職場が男性の育休取得を認めない雰囲気 ・・ 33.8%
今回の法改正によって仮に制度面での取得のハードルが下がり、企業も男性の育休取得を推奨していったとしても、それだけでは解決し得ないのが2番目に多い「収入減少」の問題です。では、実際に男性従業員が育休を取得すると本人の収入はどの程度下がるのでしょうか。
厚労省の統計から男性の第一子出産時平均年齢(30~34歳)における平均収入を基に設定した以下のモデルで、2週間、1ヵ月、3ヵ月の育児休業を取得した場合の収入への影響について厳密な試算を行ってみます。
育児休業中は雇用保険から非課税の育児休業給付金支給され、また休業取得月は健康保険料と厚生年金保険料が会社・本人共に免除されます(この試算では「2週間の取得」でも保険料を免除されたものとしていますが、2022年9月までは月の末日に育児休業を取得していなければ免除の対象となりません)。これらを加味すると、本人の収入は以下のようになります。
2週間~1ヵ月の取得では、それほど大きな収入の変動はないことが分かります。なお、住民税額は個別の要因による税額の差が大きいためこの試算には含めていませんが、給与・賞与の支給額の減少に応じて翌年の住民税額が減少することになるため、育児休業を長く取得するほど理論上の収入減少率はこれよりさらに小さくなると言えます。
「育児休業を取りたいけれど、収入が下がるから難しい」と考えている従業員も、取得期間ごとの実際の収入への影響度が見えれば、許容できる期間で育児休業を取得するという選択肢を持てるかもしれません。
新制度では、妊娠・出産(本人または配偶者)の申出をした従業員に対し制度説明や取得の意向確認を行うことも企業に義務付けられます(2022年4月施行)。男性の育児休業取得の柔軟化により選択肢が増える中、制度の説明に合わせてこうした判断材料を持つことのサポートができれば、男性の育児休業取得の後押しとなるでしょう。