戦略人事への第一歩は「分析」から
人事コンサルタント 古崎 篤
「管理の人事」から「戦略の人事」へ。
当コラムでもたびたびその転換について提言してきましたが、クライアント企業の人事部門からは、人手不足も相まって様々な定型業務に忙殺され、人材戦略に関わる企画や人事施策の十分な検討にまで至らない、という声をよく聞きます。
昨今の「人的資本経営」を志向する流れの中で「経営戦略と人材戦略との連動」への理解が進み、CHROやHRBPなど人事に特化した専門人材の必要性も認知されてきたとは言え、実際に導入している企業はまだ少数派です。
多くの企業では人事担当者が総務等を兼任しながら、経営層や経営企画部門から降りてくる方針や戦略に従い、事業部門から上げられた採用人員要求や諸問題の対応を受容しつつ、その狭間で事務処理に追われているのが実状ではないかと推察します。
そして、人事部門がオペレーション主体から脱却できず、経営戦略の実現を組織人事の観点でサポートする体制が整わない理由は、単なる人手不足やマインドチェンジだけの問題ではないように思われます。
例えば、組織上の諸問題を解決するには正しい現状把握が不可欠ですが、どれだけの人事担当者が自社の組織構成や事業部門の状況を正しく分析し、内在する問題と今後の課題点を的確に把握できているでしょうか。
仮に課題を感覚的に捉えていても、共通の尺度と言葉で客観的に説明できなければ、経営層に対し精度の高い議論や施策提言はできず、人事部門が経営にとって「戦略のパートナー」となることは難しいでしょう。
現在運用中の人事制度や施策が、当初に想定した効果をもたらしているか、あるいは想定外の問題が生じていないかについて、一定の仮説(直感)を持ちながら、今ある人事データを用いて客観的に分析し効果検証していくプロセスが必要です。
病状を正確に把握しないと適切な処方箋が出せないように、企業経営においても、精度のある現状分析と、そこから導き出される将来への影響・予測をもとに、あるべき人事施策を行うことが求められていると考えます。
我々コンサルタントも、人事施策のコンサルティングを行う際の第1フェーズとして、クライアント企業の組織構成や財務状況、人事制度(等級・評価・報酬)の運用に潜む問題点をスクリーニングし、課題として把握・共有することを旨としています。
人事情報や決算書等を用いた定量分析と、インタビューやサーベイ等の定性分析を組み合わせて行いますが、その視点や詳細方法については別稿にてご紹介したいと思います。