エンゲージメント調査で組織の課題を可視化する
人事コンサルタント 古崎 篤
近年、企業と従業員の間の信頼関係の度合いを測り、組織状態の善し悪しを可視化する指標として、「エンゲージメント」が用いられるようになっています。
本稿では、前回の当職コラム(戦略人事への第一歩は「分析」から)を踏まえ、組織分析の手法として用いられる「従業員エンゲージメント調査」についてご紹介します。
従業員エンゲージメント調査は、従業員から見た「会社とのつながりの強さ」を数値化して把握するアンケート調査であり、会社組織や仕事に対する従業員のポジティブ/ネガティブな感情を測定するものです。
個人における居心地の良さや動機づけに着目する「従業員満足度」や「モチベーション」と異なり、「エンゲージメント」はあくまでも組織と従業員との信頼関係を表し、より双方向的で、生産性向上などの目的や成果を志向する概念であると言えます。
調査結果の一例を見てみましょう。エンゲージメントの高低に影響する要素を大きく5つの領域(左図)に分け、領域ごとに用意した設問への回答スコアを集計し、右図のようにまとめました。
この集計結果からは、以下の課題点が読み取れます。
*ポジティブ結果の現状平均(61%)が理想ライン(70-80%を想定)を下回っており、組織全体のエンゲージメントが相対的に低い
*「職場環境/個人状態」は理想ラインよりも高く、一見すると“働きやすい職場”である
*一方、「理念共感度」が相対的に低いことから、経営理念や組織戦略が現場に浸透せず、従業員の属人的な行動解釈が横行している可能性がある
(つまり、“働きやすい”のではなく、マネジメントの効かない“緩慢な職場環境”である傾向)
*「等級/報酬」のポジティブ結果も半数に止まっており、企業理念/組織戦略と等級制度が紐づかず、等級ごとの期待役割が不明瞭(すなわち、昇格/昇給基準も不明瞭)であるために、昇格や報酬に対するネガティブ傾向が高い
・・・等々
人事制度の制定/改定時や、顕在化した人事労務課題(労働生産性の低下、離職や休職の増加、採用難など)の根本解決に際しては、組織に内在するボトルネックを特定し可視化するプロセスが不可欠です。
上記のようなエンゲージメント調査を通じて、打つべき施策の絞り込みと実効性を高めることが可能となります。
(実際には、課題の解像度を高めるため、従業員属性別や設問項目別での詳細な集計/分析を行います)
組織マネジメント上、「関係の質」を高めることで「思考」→「行動」→「結果」のそれぞれの質を高めることができる、とされています(組織の成功循環モデル)。
その起点であり帰結こそが、「関係性=エンゲージメント」です。
従業員エンゲージメント調査は、課題発見→人事施策の検討に繋げるだけでなく、実施した施策が組織に有効に機能しているか(=エンゲージメントが高まったか)の効果測定に用いることもできます。
組織の好循環を作るためにも、エンゲージメント調査による恒常的な「関係の質」のモニタリングを行うことが、今後の組織マネジメントにおいて不可欠と言えるでしょう。