コンサルタントコラム

定年延長を議論する前に考えるべきこと


シニアマネジャー 矢田 瑛

「定年の引上げを検討したいのだけれど…」こんな声を耳にする機会がとても増えてきました。

経団連が公表している「2023年人事・労務に関するトップ・マネジメント調査結果」によれば、65歳までの定年引上げについて、導入予定が6.6%、検討中が39.2%となっており、半数近い企業が現行の定年に課題感を持っているようです。
増加の背景としては、シニア雇用に関連する法改正など外部環境による影響も少なくないでしょうが、主としては人材確保や後継者不足、シニア世代のモチベーション向上といった内部環境が背景・要因かと見受けられます。

ただ、仮に何かしらの課題感があって定年延長を検討しているのだとしたら、その課題が本当に定年延長で解決できるのか、もっと言えば定年延長でしか解決できないのかを一度立ち止まって考えなくてはなりません。

例えば、“人材の確保”が主たる課題であったとした場合に、とにかく「量」の確保・定着が必要なのか、そうではなく「質」つまりは優秀層の定着と長い活躍が必要なのかといった点です。
前者であれば、定年延長は施策として有効かつ必要と言えるのかもしれません。
他方、後者であれば、定年延長といった一律の施策は横並び感があるため、優秀層には必ずしもメッセージが届かず、期待する結果を得られないかもしれません。

また、定年延長をすれば将来の総額人件費コストは必ず引き上がってきます。これは避けて通れません。
そうした時に、限られた総額人件費の分配方法として、シニア層への投下が必要な局面であるのか、若手・中堅層など現役世代にかえってマイナスの影響を生まないかといったことの議論も必要となります。

そのため、人材の質と量、あるいは働きやすさ・働きがいといった観点に照らしたときに、何に/どこに/どのくらい課題感があるのかを把握し、それらを整理することがまずスタートになってきます。
そして、その打ち手を考えたときに、前述の“定年延長で解決できるのか、定年延長でしか解決できないのか”といった問題提起に戻ってきます。

この点、もう一つ例をあげてみますと、ある企業で“技能伝承が進まず後継者が育っていない”という悩みがあったとします。これは定年延長をすれば解決に繋がるでしょうか。
完全に否定はしませんが、問題が先送りになるだけであり、根本的な解決施策とは言えないでしょう。
先行あるいは並行して、後継者育成や技能伝承の動機づけをする仕組みづくりが必要ではないかと思ってしまいます。

以上、長々と書き綴ってしまいましたが、何も定年延長に対して否定的であるわけではありません。
本コラムで述べたいことは、定年延長に固執せずに、現状を俯瞰で捉え、将来の人事施策を検討しましょうということです。

また、定年延長をすべての従業員が望んでいるかというと、必ずしもそうとは言い切れません。セカンドキャリアを考えている方、フルタイムではない多様な働き方を望んでいる方も一定数存在します。
これらの前提にたち、経営側の想いや事情と、現場の声・要望を踏まえて、自社にとっての最大公約数を探してみてください。

執筆者紹介

シニアマネジャー

矢田 瑛 やだ あきら​

人事制度や組織再編等の人事コンサルティングから人事全般のアドバイザリーまで幅広く活動。企業における悩みや課題について、その本質にフォーカスした実務アドバイスを行っている。

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