コンサルタントコラム

小規模企業が無理なく運用できるシンプルな報酬制度について考える(中編)


人事コンサルタント 宮川 淳

前回の前編では、小規模企業に適する賃金制度の要件として、①メンテナンスが楽で、②人件費コントロールが容易で、③移行もシンプルでハマりやすい、の3つが重要なファクターである旨を説明しました。
今回は、それらを実現するための手法について考察してみます。
(当初は前後編2回の予定でしたが、ボリュームが膨らんだため今回は中編としてお届けします)

まず、賃金テーブルの「メンテナンス」を例に考えみます。
賃金テーブルといえば、1等級5号棒は250,000円、3等級10号棒は350,000円といったように、いわゆる「号俸表」をイメージされる方が多いでしょう。デフレ下で賃金水準がほぼ横這いであった過去20年程度は、一度作ってしまえばこれで十分事足りたかもしれません。

しかし、賃上げ圧力が高まり、環境変化の激しい現在では、ごく短期でテーブルを書き換えていかないと、すぐに陳腐化してしまうことは明らかです。また、単純なベースアップならまだしも、小規模企業ではテーブル改定のノウハウがなく手を付けようがない・・・といった悩みもあるでしょう。

このような企業には、賃金テーブル(賃金表)は作らず、昇給表のみ作成するのが現実的です。
具体的には、等級ごとに基本給の上限・下限(レンジ)を設定し、あとは評価に応じた昇給率(1等級のA評価なら3.5%など)を設定しておくだけです。このようにすることで、賃金水準を見直すときには、レンジを調整するだけでよく、号俸表のように金額ベースでテーブルを組み直す必要はありません。若手中心に給与水準を改善したい、といった場合にもシンプルな変更が可能となります。
以上が、「メンテナンス」性という観点からみたアプローチです。

次に考えるべきは「人件費コンロール」です。
人件費の変動要素の代表格と言えば、昇給や賞与の原資です。これらは、会社業績に応じて期ごとに変動するのが通常です。例えば、上記のように評価別の昇給表を作ったとしても、A評価が多すぎては昇給コストが嵩んでしまいます。そこで、評価を下方修正することで昇給コストを適正に抑えるといった、昇給予算から逆算した形での評価調整が行われることになります。
しかし、この作業は手間がかかるだけでなく、評価結果を捻じ曲げ、社員の納得性を損なることにもなり兼ねません。このため、予算内に昇給や賞与を個人に反映できる仕組みを考える必要があります。

次回の最終回では、この方策について考えてみます。

執筆者紹介

人事コンサルタント

宮川 淳 みやかわ あつし

人事制度設計から、労務監査等の人事コンサルティングをメインに活動。制度設計だけでなく、実務に根ざした現場レベルでの運用アドバイスを行っている。

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