IPOに向け労働時間管理を見直すとき、会社が意識したいこと
人事コンサルタント 星野 陽子
さて、過去のコラムにても、IPO(株式上場)における労務管理の重要性についてお話しさせていただいておりました。
今回のコラムでは、労務管理の基盤ともいえる、労働時間管理について触れたいと思います。
アクタスでは、これまで数多くの企業様の上場をご支援してきました。
その中で必ずと言ってよいほど、議論に時間を要するのが労働時間の問題です。
そもそもどのような労働時間制度が自社の働き方にマッチするのか、適法なのか、という点で労働時間制度から再検討を要することもありますが、今回は、労働時間の「適正」な把握に焦点を絞ってみたいと思います。
人を雇い入れている以上、避けて通ることができないのが労働時間の問題です。
みなさまの会社で、従業員ひとりひとりが労務提供していた時間を正確に把握できているかと問われた時、自信をもって正確に把握できていると答えられる会社は、実はそう多くないのではないでしょうか。
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置 に関するガイドライン」では、
・労働時間=使用者の指揮命令下に置かれている時間であること
・使用者の明示又は黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は労働時間に当たること
を前提に、業務に必要な準備行為や業務終了後の業務に関連した後始末の時間、手待時間、業務上義務づけられている研修・教育訓練等の時間は労働時間として扱わなければならないことを示しています。
そして、労働時間の記録方法が自己申告制による場合には、自己申告による労働時間とパソコンの使用時間のログ等と突合させ、これに著しい乖離が生じているときには、実態を調査し、補正することを求めています。
原則として、IPOを目指すときには、このガイドラインに従って労働時間を管理していくのですが、これを「上場のために仕方なくやる」のではなく、ぜひ、上場企業としての適格性、信頼度の維持向上のために対応していただきたいと考えております。
当然、ガイドラインに従って適正に労働時間を管理することで、未払い賃金を生むリスクを減らすことができるのですが、適正な労働時間管理は会社を守るためにも重要と言えます。
上場準備中も、また、上場後においても、従業員や退職者等との間で労働時間に関するトラブルが生じないと断言することはできないと思います。
ガイドラインに従って正しく労働時間が記録されていれば、万一、そのようなトラブルが生じてしまった場合に、会社を守る武器のひとつになり得ます。
例えば、ある従業員が精神疾患にり患し、離れて暮らす家族から長時間労働が原因だと疑われた場合にも、勤怠管理システムによる労働時間の記録とパソコンの使用時間の記録とを示し、長時間労働の事実がないことを説明することができるのです。
上場準備中に思いもよらぬトラブルが起こること、それが人事労務の問題である場合も多々あります。
上場準備は、短期的に見れば重い負荷とも言えますが、上場後に得られるメリットはその負荷以上に大きく、目を見張るほどの躍進ぶりである企業も多いものです。
そのような躍進を遂げるだけの企業となるのは、社会的信用があるからこそですし、そのためには従業員との間でもトラブルを生じさせないことが肝要です。
パブリックカンパニーへの転換に向け、しかるべき対策を講じていきましょう。