人材不足の企業経営にビジネスケアラーが追い打ちをかける
人事コンサルタント 星野 陽子
偶然かもしれませんが、お客様から介護離職のご相談を立て続けにお受けしました。
みなさまの会社には、介護の悩みを抱えた従業員が一体何人いるでしょうか?
経済産業省は、2024年3月26日に「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」を公表し、我が国が超高齢社会を迎える中で、仕事をしながら介護に従事する労働者、いわゆるビジネスケアラーの増加に警鐘を鳴らしています。
そもそも少子化により、生産年齢人口は減少の一途をたどり、各企業では人材確保が企業存続上の大きな課題となっています。
先述のガイドラインによれば、2030年には家族を介護する833万人のうち、約4割(約318万人)が仕事をしながら家族等の介護に従事するとの予測が示されています。
また、同ガイドラインでは、従業員が仕事と介護の両立が困難となることに起因する損失額(労働生産性損失額+介護離職者発生による損失額)を一定規模の企業で推計した数字として、2030年に、大企業(製造業・従業員数3,000名)で1社当たり年間6億2,415万円(労働生産性損失額:5億5,407万円+介護離職発生による損失額:7,008万円)、中小企業(製造業・従業員数100名)で1社当たり年間773万円(労働生産性損失額:686万円、介護離職発生による損失額:87万円)に上るとのインパクトのある数字が示されており、企業経営における仕事と介護の両立支援にむけた取り組みは看過できない重要な課題なのです。
女性の就業率の増加、共働き世帯の増加、少子化、非婚化、高齢化さまざまな事情を背景に、介護をする人と介護をされる人の続柄は変化してきました。
昭和の時代には、高齢になった親の介護は嫁(実子の配偶者)が担うことが一般的であったかと思いますが、実子や配偶者が介護を担うケースが増えました。
そして、介護を担う世代としては、マネジメント層が多いことにも注意が必要です。
また、介護は誰しもが担うことになり得るということも忘れてはなりません。
それにも関わらず、仕事と介護の両立支援への取り組みは、育児との両立支援と比べると置き去りになっていました。
育児・介護休業法による介護休業、介護休暇や介護のための所定外労働の制限等の措置はあれど、育児・介護休業法の定めを上回る措置を設けている企業は限られ、介護休業の取得率が公表されることもなければ、従業員が介護を担っているかという実態の把握すら多くの企業で行われていないのです。
また、従業員側もいざ介護が必要な場面に直面するまで、介護という問題に目を向けておらず、何をすればいいか、どのような制度があるか、あまり知らないということが多いでしょう。
2024年5月24日には、改正育児・介護休業法が参議院本会議で可決・成立しており、この改正趣旨には「介護離職防止のための仕事と介護の両立支援制度の強化等」が掲げられています。
介護は単なる従業員個人の問題ではありません。
企業における介護離職の防止、仕事と介護の両立支援のための取り組みは、まさに待ったなしの状況と言えるでしょう。
人的資本経営に取り組む観点からも、今後企業内で増加するビジネスケアラーがその価値を最大化できるように、環境や制度の整備、キャリアへの不安に対する対策などが求められています。