IPOに挑む時こそ人事制度を
人事コンサルタント 星野 陽子
これまで、多くの企業のIPO(株式上場/Initial Public Offering)支援に携わってきましたが、労務デューデリジェンスを行い、そこで抽出された労働関係法令の問題点を形式的に解決すればそれで万全かと問われますと、確かに、上場審査に耐えうるかもしれませんが、真のIPOの目的を達成することはできない可能性が残ります。
日本では年間100社程度の企業が上場を果たしていますが、これらの企業、そして、IPOを目指す企業が、何を目的にIPOに挑むのか、一言でいえば「自社の成長のため」ではないでしょうか。
上場のメリットは、資金調達の多様化、知名度の向上、株式の流動性の向上など様々ありますが、帰結するのは「会社の成長」でしょう。
そうしますと、人事労務の観点でも、関係法令を遵守していればそれで良いということではなく、経営戦略にフィットした人事戦略を策定し、企業の発展に資する人事制度を構築することが必要であることは明白です。
IPOを目指すスタートアップ企業がトップラインを上げていかなければならないのは当然で、そのために経営戦略、事業戦略は見直されているのですが、人事戦略はなおざりになり、人事制度は構築されていないケースも見受けられます。
経営戦略に則した人事戦略に基づく人事制度をIPOという転換期においては、見直す、あるいは構築することが、その後の展開を左右していくのではないでしょうか。
従業員数はまだ多くないスタートアップ企業であっても、経営戦略を踏まえた人事戦略を策定し、人事制度を構築することが重要になってきます。
上場審査においても、その会社の成長性・継続性・安定性などを考慮して、等級制度や評価制度、従業員の定着状況などを質問されることがあります。
さらに、上場後には「人的資本開示」に向けた取り組みが求められ、これを見据えてもやはりパブリックカンパニーへの転換を意識した人事制度を構築していくことが重要になるでしょう。
上場を目指すにあたっては、経営戦略の策定とあわせて人事戦略を策定し、人事制度を検討していくべきと言えます。