「組織の成功循環モデル」から考察する報酬制度の意義
人事コンサルタント 宮川 淳
「組織の成功循環モデル」とは、マサチューセッツ工科大学のダニエル・キム教授が提唱している理論で、組織としての「結果の質」を高めるには、まず「関係の質」を高めるべき、という考え方です。企業のマネジメント研修などでご存知の方も多いのではないでしょうか。
グッドサイクルは、メンバー間の相互理解を深めて一緒に考えるようになると(「関係の質」の向上)、自分で気づきや面白さを感じ(「思考の質」の向上)、自発的に考え行動するようになり(「行動の質」の向上)、結果として良い成果が生まれ(「結果の質」の向上)、その結果が信頼関係を生んで「関係の質」が更に向上していきます。
反対にバッドサイクルでは、結果を求めることから入ります。成果が上がらないと(「結果の質」の低下)、一方的な指示や責任の押し付けが横行し(「関係の質」の低下)、自ら考えることなく受け身でしかなくなり(「思考の質」の低下)、必要最低限のことしかやらないので(「行動の質」の低下)、更に成果が上がらないという負のスパイラルに陥ってしまいます。
これを社員の給与(報酬)に置き換えてみると、どうなるでしょうか。
自社の給与水準が競合に劣るとして、給与額のアップに特化して対応しようとすると、社員の期待以上に給与が上がらなかったときに、まず関係性が悪化し、次第に思考レベルが低下し、前向きな行動も生まれず、成果も上がらないため、待遇アップも持続しないという悪循環になってしまいます。
逆に給与額が劣るような状況下でも、自分自身で待遇アップできる仕組み(報酬制度)を相互に理解し、共に考える姿勢を示すことで関係性が高まり、当事者意識が強まり、チャレンジ行動が生まれ、高い成果を上げるようになります。そうすることで、本人の待遇に繋がり、更に信頼関係が強固になり、目標が高まり、良いアイデアが生まれ・・・といった好循環のサイクルが回り出します。
つまり、いくら報酬制度を改善しても、「関係性の質」が希薄な状態では、その効果は長続きしないということです。十分な額の報酬を与えているはずなのに、なかなか見合う成果を出さない、他社に引き抜かれる・・・このような悩みを抱える企業においては、「関係の質」が起因していると疑うべきでしょう。