適正人件費から考える「給与の3倍稼いで一人前」の意味(前編)
人事コンサルタント 宮川 淳
我々のようなコンサルタント職で、一人前の試金石としてよく問われるのが、自分の給与の3倍稼げるかです。この格言は、かの松下幸之助が残した「・・・常識的には、十万円の人であれば少なくとも三十万円の働きをしなくてはならない・・・」(「社員心得帖」PHP文庫)という言葉が由来ともされます。この思想自体は、いわば経営哲学のようなものかもしれませんが、果たして適正人件費の観点から妥当と言えるのでしょうか。今回は、前編と後編の2回に分けて、労働分配率という概念を用いて考察してみます。
「労働分配率」とは、企業が生み出した付加価値に対して、どれだけ従業員に分配されているかを示すものであり、次の算式となります。
労働分配率=人件費÷付加価値
ここでの付加価値(額)とは、売上高から、それに要した原材料や外注費などの外部購入費を控除したものです。小売業を例にすれば、付加価値=売上総利益(売上-売上原価)と考えればよいでしょう(付加価値の具体的な算出方法はいくつかありますが、ここでは割愛します)。
労働分配率が高い企業は、利益に対して人件費過多になっている可能性があります。高いほど利益確保が困難になり、必要な支出や将来の投資ができなくなることを意味します。逆に、労働分配率が低い企業は、効率よく利益を生み出していると言えます。ただし、相場より給与水準が割安になっている場合には、従業員の人材流出リスクを抱えていることになります。
つまり、労働分配率が低く抑えられ、かつ、給与水準でも優位性がある状態(=低分配率・高賃金)が、経営的には理想的な姿であるということです。
このように労働分配率は、適正人件費をコントロールする上で、重要な指標の一つであることがお分かりいただけたかと思います。競合他社に対する自社の給与水準は、多くの方が気にしているはずですが、その一方で皆さんは自社の労働分配率を把握されているでしょうか。
後編では、この労働分配率に当てはめて「給与の3倍稼ぐ」意味を考えてみます。