同一労働同一賃金をコンプラ対応のみで終わらせてよいか?
シニアマネジャー 矢田 瑛
同一労働同一賃金法制への対応の中で、諸手当の見直しを迫られている企業も少なくないのではないでしょうか。諸手当と一口に言ってもその種類は様々ではありますが、ここでは生活関連手当の代表格である家族手当について触れたいと思います。
一般的な家族手当の支給趣旨としては、家族構成によって必要となる生活費に違いがある実態に対し、その一部を補填することにあります。
であるならば、なぜ非正規社員には支給しないのか、これについて合理的な説明が果たしてできるでしょうか?
同一労働同一賃金の考え方に基づけば、非正規社員に家族手当を一切支給しないという結論は、特殊な事情がない限りは難しいと言わざるを得ないでしょう(有為人材獲得論の考え方もありますが)。
では、非正規社員に対しても家族手当を支給するのかという話しになりますが、これは人件費の観点からも現実的ではないかもしれません。
そこで、この機会にあらためて原点に立返り、そもそも家族手当を支給することが企業経営にとってプラスに働いているのかを考えてみてはいかがでしょうか。
繰り返しになりますが、家族手当は、従業員の役割や職務・能力などの仕事とは関係なく、属人的な要素によって支給されるものです。
例えば、扶養している配偶者がいる場合には、10,000円の家族手当を支給することになっているとしましょう。
現在、定期昇給率は世間平均2%といわれていますので、月給30万円であれば6,000円です。1年間頑張って働いた結果が6,000円という昇給額として現れるわけです。
一方で、結婚して扶養する配偶者ができた場合には、仕事のパフォーマンスに関係なく、それを上回る10,000円が支給されます。
自身の給与が増えることについて、文句を言う従業員はいないでしょう。ただ、家族手当に原資が充てられることで、純粋なベース部分の給与原資が少なからず減っていることもまた事実です。
独身者や共働き世帯が増えてきている現代において、このような手当は、果たして従業員全体のモラール向上に寄与してくれているのでしょうか。もちろん、会社として「従業員の家族を大切にする」という福利厚生的なメッセージを持たせていることも少なくありませんが、それは月額の手当でなくてもいいかもしれません。
限られた原資をいつ・誰に・いくら支払うのか、それによってどのような人に報い、会社に定着・貢献してほしいのか、この人事ポリシーなくしてこれ以上の議論は進みません。
同一労働同一賃金法制への対応を、単なるコンプラ対応のみで終わらせてしまうのか、給与の仕組みを全体的に見直す契機とするのか、企業にとっての大きな分かれ道が目の前にきています。