男女間賃金差異の解消で企業の未来を育てる
人事コンサルタント 星野 陽子
2022年7月8日、女性活躍推進法に基づく制度が改正され、常用労働者301人以上の一般事業主に対して、男性の賃金に対する女性の賃金の割合の公表が義務付けられました。
男女間の賃金格差は縮小傾向にありますが、このような義務を課すことによって、男女間の賃金格差のさらなる縮小を目指しています。
この賃金差異の公表は企業にとっての事務負荷が高く、煩雑であることも事実ですが、企業にはこうしたジェンダー・ギャップを解消するための取り組みを好機ととらえ、女性を含めた多様な人材の活躍によって新たな価値を創造し、サステナブルな社会を創っていく、その未来志向こそが今望まれているのでしょう。
では、男女間の賃金差異の解消と女性の活躍に向けて、どのように取り組んでいけばよいでしょうか。
- Step1:男女間の賃金差異の算出
厚生労働省が示している「男女の賃金の差異の算出方法等について」などに基づき、男女間の賃金差異を算出します。 - Step2:原因の分析
男女間の賃金差異が認められた場合、なぜその差異が生じているのか分析しましょう。コース別管理制度、賃金制度、評価制度、等級制度などの構造的な問題の他にも、不合理・不平等な慣習、アンコンシャス・バイアスなども存在しているかもしれません。要因は複雑に絡み合っていることが多いと考えますが、丁寧に紐解いていきましょう。
この際、従業員に対する意見調査も有用です。 - Step3:制度を改定
これまでのステップを踏まえて、制度改革に取り組みます。賃金制度、評価制度などの改定のみならず、育児・介護休業制度の充実や利用者を増やす取り組み、フレックスタイム制などの柔軟な労働時間制度の導入等も含め、検討します。女性従業員が育児や介護などを理由に不本意に退職せず長く働き続けること、優秀な女性従業員が会社の重要な役職を担えるよう育成・支援していくことを可能とする改革を推進しましょう。 - Step4:意識の改革
制度を改定しても、男女の役割や職業適性に関する固定的な見方が払拭されなければ、ジェンダー・ギャップの解消は容易ではありません。会社全体でダイバーシティの意識を高める取り組みが必要でしょう。
男女間の賃金格差は、我が国の社会や家庭における男女の役割分担意識や個人の進路・キャリア選択なども大きく影響しており、企業が賃金の差異を公表することのみをもって、この差異が解消されるという単純なものではなく、社会や家庭の在り方が変容していくことも求められます。
しかし、従業員が不平等な賃金格差を認識すると、生産性の低下にも繋がりがちですし、リテンションにも大きな影響を与えます。今後は採用においても、男女間の賃金差異は重要なポイントとなりますし、投資家やステークホルダーからの評価基準でもありますから、もはや、男女間の賃金差異の公表を契機としたジェンダー・ギャップの解消は待ったなしの状況ではないでしょうか。