人的資本経営が企業の未来を左右する
シニアマネジャー 矢田 瑛
近年、人的資本経営が大変注目を浴びています。
そこに合わせていく形で、2022年7月には301人以上の企業に男女間の賃金差異の開示が義務付けられ、翌年には有価証券報告書への人的資本をはじめとした非財務情報の開示が強化・拡大されてくる予定です。
本コラムでは、人的資本とは何かといった話しは割愛しますが、人的資本は物的資本のような定数ではなく、人のパフォーマンスに左右される言わば“変数”であり、また会社の判断で処分できるものでもなければ、突然離職などといった形で失うこともあるものです。
「人財」という言葉は言い得て妙ですが、想いとしては財産であっても、言葉の定義としての財産ではないといえます。
そのため、人的資本をいかに活用して変数を最大にしていくかといった話しになるわけですが、適材適所といったタレントマネジメントのみで実現できるものでは当然ありません。
なぜなら、それは現時点での100%に近づけるものであり、それが本当の最大ではないからです。
つまりは、単なる適材適所ではなく、適材を育てること。そして個人レベルの把握・適所ではなく、組織レベルでシナジー・相乗効果を生み出す適所をすること。それにより現状の枠を超えて、120%、200%の力に変えていく、これが「最大化」であるためです。
そして、その最大化を図っていく上で重要な基盤となってくるものは、等級・評価・賃金といった人事制度になってくるでしょう。
ただ一方で、様々な企業の実態を現場でみていると、人事制度が組織や人を成長させるのではなく、それらしく賃金を決めるためだけの仕組み、いわば“管理”するためのツールに成り下がっているように思われる場面が少なくありません。
また、大事な部分がブラックボックスになっていて、将来の自身のキャリアや役割、何が評価されどのように処遇に反映されてどう上がるのかなど、社員が将来目指す姿をイメージできない制度になっているケースもあります。
これらで果たして人的資本の変数を最大に向かわせることが可能でしょうか。
話しをまた冒頭に戻しますが、人的資本にかかる情報開示が今後より一層求められてきます。
投資家は世間の評判よりも、企業のことは社員が一番よくわかっていることを知っています。
私個人は「ブラック企業」という言葉が好きではありませんが、このブラック企業であるか否かの線引きは、現在の法的な違法性ということから、人的資本の開示状況や制度の不明確さといった「ブラックボックス」を意味してくる時代も遠くないのかもしれません。
“隠せない”時代に勝つ企業は“隠さない”企業。
社員にも社外にも、可能な範囲で自己開示を進めていきたいところです。