コンサルタントコラム

最低賃金「月20万円」時代に考えるべきこと


シニアマネジャー 矢田 瑛

「最低賃金」というと、数年前までは時給制のパート社員だけの話しでしたが、ここ数年大幅な引上げが続いたことにより、月給制の正社員にまで大きく影響を及ぼすものに変わってきています。

例えば、東京都の企業で、年間休日120日・1日8時間の企業があったとした場合、最低賃金の月給額は以下のように算出されます。
<月平均の所定労働時間数>
 (365日-120日)÷12ヵ月×8時間≒163.33時間
<最低賃金の月給額>
 163.33時間×1,163円=189,957円

つまり、前述のような企業では、およそ月給19万円が最低賃金となるわけです。
これが本年も昨年並みに50円上昇してくれば、月給20万円の時代がそこまできていることになります。

このような正社員と最低賃金の問題に関して、実際にあった事例を2つほどご紹介できたらと思います。
(各数値はわかりやすいものに一部加工しています)

【事例1】東京都、月給195,000円、1日8時間、年間休日110日のケース
本ケースでは年間休日が前述の例よりも少ないことで、月平均所定労働時間数は170時間、最低賃金としては197,710円(>月給)であることが確認されました。このように、月平均所定労働時間数によって最低賃金のボーダーは変わるため、自社の数値を正しく把握しておくことが必要といえます。

【事例2】東京都、月給245,000円、1日8時間、年間休日122日のケース
一見すると、最低賃金とは無縁のように見えますが、実は月給には固定残業代として時間外勤務40時間分が含まれていました。固定残業代分を除いた基本給を計算すると187,216円、時給でいえば約1,156円となり、こちらもまた下回る状態が確認されました。このようなことは、固定残業制を取り入れている企業では時々みられ、知らずに抵触していた典型的なケースといえます。

上記のように最低賃金に抵触している、あるいは抵触する可能性がある場合には、是正対応が急務となってきますが、そのアプローチ方法としては大きく以下の3つがあります。

1)給与テーブルの見直し
言わずもがなですが、最もシンプルな対応は賃上げになります。
ただ、その場しのぎでボトムだけをあげたのでは、新卒1年目と2年目以降で逆転するなど、社内のバランス・公正さを欠いてしまうことも少なくありません。全体の底上げができれば理想ではあるものの、それがどうにも難しければ、範囲を限定する、上位にいくにつれて金額を逓減するなど、調整を計っていくことになります。

2)固定/変動費の内訳変更
最低賃金だけのことを考えれば、年収に占める賞与比率(変動費)を減らし、その分月給比率(固定費)を高めることも一つです。あるいは残業時間の削減と並行しながら、固定残業代を減らして基本給に組込むことも考えられます。
ただ、いずれの場合も、残業単価は上がってきますので人件費コストとしては増えてくる可能性が高いです。

3)年間休日の増加
前述のとおり、年間休日が多いほど月平均所定労働時間数は小さくなるため、結果として時給単価を引き上げることに繋がります。
ただ、それと同時に残業単価も上がりますし、休日が増えたとしてもその分残業も増えてしまっては、これまで以上に人件費が増加することになります。そのため、生産性の向上とセットで考えることが肝要です。

なお、【事例1】の企業では、新卒採用をしていないこともあり、中途採用時の最低給与額の引上げと、ボーダー付近の在籍者に対する昇給上乗せにより改善をされました。あわせて年間休日を増やすことについても継続して検討をはじめているところです。
対して、【事例2】の企業では、実際の残業時間が40時間もなかったため、固定残業代の一部を基本給に組込むことで改善をされました。更なる時間外労働の削減を進めていきながら、将来的には固定残業代をなくしていく方向で思案しています。

最低賃金は、これからも間違いなく上昇の一途を辿ってきますので、その場しのぎではすぐに限界がきてしまいます。
また、法的な側面に限らず、必要な水準を実現していかなくては、当然のことながら採用競争力・人材定着にも大きな影響を及ぼしてきます。
そのため、最低賃金の動向には目を向けながらも、都度振り回されながら給与の微調整をするのではなく、将来を見通したうえで賃金制度全体の検証・再構築をするなど、より大局的なアプローチで向き合っていくことが不可欠といえます。

執筆者紹介

シニアマネジャー

矢田 瑛 やだ あきら​

人事制度や組織再編等の人事コンサルティングから人事全般のアドバイザリーまで幅広く活動。企業における悩みや課題について、その本質にフォーカスした実務アドバイスを行っている。

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