長時間労働が企業にもたらすもの
シニアマネジャー 矢田 瑛
働き方改革関連法により、今後は長時間労働に対する様々な対応が企業側に求められてきます。これはひとえに、業務に起因する過労死や過労自殺等をなくしていくためであり、電通の痛ましい事件も記憶に新しいところです。
ここで“過労死”“過労自殺”という言葉だけをみると「うちにはあまり関係がないな」という風に思われる方もいるかもしれませんが、そこに至るまでの“うつ病”などの精神疾患と言えば、多くの会社で心当たりがあるのでないでしょうか。
長時間労働による精神疾患が企業にもたらすものは、何も過労自殺等に限ったものではありません。では、どのような影響やリスクをもたらすのか、代表的な次の4つについてデータを見てみましょう。
1)労災請求・損害賠償
精神障害の労災認定件数:H29年度506件(請求件数の約3割)(※1)
過労自殺の損害賠償額:1億6,800万円(電通過労自殺事件)
2)人材の流出
メンタルヘルス不調による休職者の退職率:42.3%(※2)
3)休職に伴うコスト
業務調整・代替・補完にかかる人件費等:1人あたり約422万円(30代男性・年収600万円・休職6ヵ月+前後3ヵ月の場合)(※3)
4)新たな採用に伴うコスト
中途採用者の求人広告費:(職種に応じて)25.9~57.5万円/人(※4)
もちろん、精神疾患の原因は長時間労働に限りませんが、企業にとっては目をつぶりたくなるような数値が並んでいることがわかります。昨今の人手不足の現状を鑑みれば、上記の3)や4)の数値は一層厳しいものになるでしょう。
また、東京商工リサーチの調べによれば、2018年の人手不足に関連する倒産件数は387件にのぼり、2013年の調査開始以降で最多を記録しており、今後も増加傾向が続くものと推測されます。
人材を確保するために最も大事なことは、言うまでもなく今いる人材を定着させることです。
「言うは易し行うは難し」ではありますが、長時間労働の是正は、企業が持続的に発展することはもちろん、存在し続けるためにも避けては通れない命題です。中小企業であれば尚更であり、目を背けず真剣に向き合っていくことが不可欠となってくるでしょう。
※1 厚生労働省「平成29年度過労死等の労災補償の状況」より
※2 (独)労働政策研究・研修支援機構「メンタルヘルス、私傷病などの治療と職業生活の両立支援に関する調査」
※3 内閣府「企業が仕事と生活の調査に取り組むメリット」
※4 (株)マイナビ「中途採用状況調査2015年」