パワハラ対策だけではパワハラは防げない
シニアマネジャー 矢田 瑛
「パワーハラスメントをなくしたいので社員向けに研修を行ってほしい」
このようなお話しをいただくことが多くあります。
ただ、パワハラをなくすということは、“なぜパワハラが発生してしまうのか“この要因を認識しないことには始まりません。
わかりやすい要因としては、従業員のパワハラに対する認識不足や誤解、感情のコントロールやコミュニケーション能力の不足などの「従業員個人」の問題があげられるでしょう。
これは、定期的に研修などを実施することで解消できる問題なのかもしれません。
では、本当に「従業員個人」だけの問題であって、その要因が解消されればパワハラは防げるのでしょうか。
例えば、恒久的な長時間労働や業績偏重の評価制度により従業員の心身に余裕がなく、従業員同士のコミュニケーションが希薄化しているような職場環境があったとします。
そこで発生したハラスメントは、「従業員個人」だけの問題であったと言い切ることはできないでしょう。
つまり、「職場環境自体」の問題。これが本質的な要因として、パワハラが発生する背景にあるのかもしれません。
以上のことからも、パワハラは長時間労働や人事評価制度などあらゆる人事課題と繋がっている可能性があり、それぞれを別物として考えていては枝葉の処理に留まり、根本の根っこまでを除去することはできません。
パワハラが発生した場合、従業員への影響はもちろん、企業側としても損害賠償などの直接的な損失のほか、モラールの低下や人材の流出、企業イメージの悪化などの間接的な損失など、その影響範囲は非常に大きいところです。
そして、2020年6月1日より、法令上においてもパワハラの防止措置を講じることが企業に義務付けられてきます(中小企業は2022年3月31日まで努力義務)。
その意味でも、パワハラを防止することは、コンプライアンスとリスクマネジメントの一丁目一番地であり、企業にとって避けては通ることができない最重要の人事課題といえるでしょう。