育児・介護の両立支援を阻む本当の理由
人事コンサルタント 古崎 篤
育児・介護休業法の改正が、2025年4月と10月に順次施行されます。
「男性の育児休業の取得促進」を掲げた2022年改正の流れを推し進め、2025年改正では「男女を問わず育児期を通じた柔軟な働き方の推進」が主たる方針となっており、従業員個人の希望や状況に応じて柔軟に働き方を選択できる制度の設置と、就業上の配慮を、企業側に義務付けるものとなっています。
(併せて、介護休業など介護両立支援策の制度周知についても、企業側で実施する義務が今回追加されました)
今改正の意義を取り上げた当職コラムで述べたように、制度の主旨と内容自体は社会的に是認されやすいとしても、企業現場での浸透策に際しては各社裁量に委ねられており、「何を、どのように取り組めば、自社最適な両立支援制度となるのか?」について、経営上のゴール設定のイメージと、現場の運用フローの具体性に乏しいことが、制度の浸透を阻むボトルネック要因となり得るところです。
実際、弊社のアドバイザリー支援先でもそのような問題を抱える声が多く、組織レイヤーごとの課題感や改善施策をまとめると、概ね以下のようになります。
【経営層】=あるべき姿がイメージできない
(→人的資本経営の観点を踏まえたゴール設定およびKPI設定)
【人事担当者】=知識面および人材面で不十分である
(→制度の理解と実運用におけるリソース確保)
【休業する当事者本人および所属部署の上司や他従業員】=休業を積極的に言い出しにくい/受け入れにくい雰囲気がある
(→不在時マネジメントの改善とポジティブ理解の組織的な醸成)
以上のようなレイヤー間の課題解決を整合させつつ、いっぽうで22年・25年の2度の法改正で複雑化した両立支援制度の情報を整理して適切に社内展開させるのがいかに難しいかは、想像に難くありません。
この点の打開策として考えられるのは、「情報の一元化」と「メッセージの可視化」です。
具体的には、制度利用者・上司および周囲メンバー・人事にとって必要な制度情報を集約してハンドブック化し、全社に公開すれば、制度理解を幅広く浸透させることができるとともに、それひとつで出産・育児・介護の全場面の個別周知や相談対応ツールとして、人事や現場の上司が活用することも可能です。
加えて、経営トップにおける福利厚生メッセージや、所属組織の上司や周囲メンバー向けの情報を併記することで、相互の立場を一定の温度感をもって理解できるようになり、制度利用の促進にも有用となるでしょう。
支援先の人事担当者からは、「行政公表の制度資料だけでは読みにくい」「自社の手続きフローと紐づけた説明が難しい」などの声もよく聞きます。制度全体についての情報が網羅され、かつ、自社カスタマイズされたメッセージや手続きフローがわかりやすくまとまった情報ツールの存在は、こうした懸念を払拭し、両立支援制度の浸透を後押しすることに繋がります。
規程や労使協定の改訂にとどまらない、“一歩踏み込んだ”法改正対応を、皆様の会社でもぜひ検討してみてください。