コンサルタントコラム

仕事と育児の両立支援のあるべき姿を描けるか


人事コンサルタント 古崎 篤

「2030年までが少子化傾向を反転させるラストチャンスである」という政府の強い危機意識の下、「こども未来戦略方針」が閣議決定されました。
直後の6月19日に公表された厚生労働省の「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書」では、上記方針を色濃く受け、とりわけ仕事と育児の両立支援制度のあるべき姿について、従来の支援策よりも踏み込んだスタンスが見られます。

報告書の言葉を借りれば、「ライフステージにかかわらず全ての労働者が『残業のない働き方』となることをあるべき方向性として目指す」としており、これまでの働き方改革やワークライフバランス、ジェンダー平等などの諸施策を統合的に推進しつつ、下記図のように、時間的にも場所的にも柔軟な働き方が想定されています。
(報告書より抜粋)

これにより、「出産・育児を理由に離職やキャリア中断をせず就業継続できる『休みの取り方』支援」から、「男女ともに子育てとキャリア形成を両立できる『柔軟な働き方』支援」へシフトする必要性がより鮮明に打ち出され、それ自体広く受け入れられやすいものであると言えます。

一方、企業側への実効性の担保としては、次世代法による一般事業主行動計画において数値目標およびPDCAの策定を法律化することや、育児休業取得率の開示制度拡充などがあるものの、個人支援策スタンスの鮮明度に比肩した明瞭なビジョン提示には至らず、引き続き企業個社ごとの取り組みに委ねられている印象です。
実際、多くの企業において、管理工数の増加や代替確保・不在補填などの人材コスト面で負担感を感じずにはいられず、育児との両立に対する職場の不理解や不公平感などを背景に、いまだ十分な浸透が図れていないのが実状ではないでしょうか。

企業にとっては、「人材=コスト」の意識がある限り、今回の制度改正で得られるものは少なく、人材コストの更なる増大を招き、採用や定着に競争力を持つことは難しいでしょう。
逆に、「人材=資本」と捉え、制度のもつ主旨・効果などを自社のあるべき姿とマッチングさせ、自社の戦略と組織そのものをアップデートさせることができれば、持続的な企業価値の向上が見込めるチャンスになります。

以上はまさに人的資本経営の変革と実践のプロセスそのものであり、今回の戦略方針や報告書も、その文脈で捉えて初めて意義を持つ、と言えるかも知れません。

仕事と育児の両立支援のあるべき姿を描くための、企業の意識改革と最適な人材ポリシーがいま、問われています。

執筆者紹介

人事コンサルタント

古崎 篤 ふるさき あつし

人事制度設計から採用戦略・組織開発、IPO支援と労務環境の適正化、規程コンサルティング、労務監査まで幅広く従事。
企業と従業員が共に成長できる関係性構築にフォーカスした支援・助言に注力する。

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