ポストコロナは非金銭的な報酬が問われる
シニアマネジャー 矢田 瑛
従業員にとっては、賃金は高ければ高い方がそれは嬉しいでしょう。高い賃金は従業員のモチベーションの向上やリテンション、さらには不正の防止にもつながるものです。
一方で、お金はどこまでいってもお金。尺度が一定である分、他と比べやすく、市場賃金との競争が常に付きまといます。そのため、それだけに頼ってしまうと、競争に負ければ簡単にとって代わられてしまいます。
ただ、当然のことながら、従業員が求めている報酬は何も金銭的なものに限りません。
例えば、職場の雰囲気や人間関係、働きやすさ、仕事のやりがいなどです。これを捉えたものとして、エンゲージメントやウェルビーイングという言葉を聞く機会も非常に増えてきているのではないでしょうか。
コロナ禍において、非常に関心が高まっているテレワークもまた、働き方の選択肢といった意味で非金銭的な報酬といえます。
事実、各方面におけるコロナ禍・テレワークに関する調査結果においても、就職・転職にあたってはテレワークの可否を重視するといった声も高まってきており、この傾向はますます強まることが推察されます。
このような非金銭的な報酬は、大別すると「安心」をもたらすものと、「挑戦」を称賛するものに分類できるかと思います。
前者は、働き方の柔軟性や休暇のラインナップ、テレワーク、副業・兼業など、比較的わかりやすい制度的側面によるものに加え、充実したオフィス環境や社内クラブ活動、懇親会など“他者とのつながり”に関わるものもあげられます。
後者の代表格は表彰制度ですが、表彰方法は何も金銭に限りません。例えば好成績の従業員に称号などの呼称を与えるような事例もあり、これはコストがかからない割には思いのほか効果が高いことも少なくありません。
そのほか、最近は社員同士が褒め合う仕組みを導入している事例も増えてきています。また、資格取得支援や社内外の研修体系の充実もここに含まれてくるでしょう。
こうしたことは、いわゆる狭義の人事制度(等級・賃金・評価)という枠ではなし得ないものです。
非金銭的な報酬の価値を高めていくためには、人事部門が高いビジネスリテラシーを持ち、従業員をある意味で「顧客」として捉えてそのニーズを満たすこと、つまりはインターナル・マーケティングが欠かせません。
ポストコロナ、そしてこれからのVUCA時代には、人事部門の役割にも大きな変化が求められてくるでしょう。