小規模企業が無理なく運用できるシンプルな報酬制度について考える(後編)
人事コンサルタント 宮川 淳
全3回で考察してきた本テーマも、今回が最終回です。中編では、「人件費コントロール」の面から、予算内で個人への昇給・賞与額を分配できる仕組みの必要性について触れました。後編ではそのロジックを検討するとともに、最後のファクターである「シンプルでハマりやすい移行」の現実手法について考えてみます。
原資内での報酬分配のロジックとしては、「ポイント制」と呼ばれるスキームが最も適しています。賞与を例に、その手順を以下に紹介します。
1.あらかじめ等級や評価に応じた付与ポイントを設定し、各人に賞与ポイントを付与
2.賞与原資÷全員のポイント合計により、1ポイント当たりの単価を算出
3.ポイント単価×各人の賞与ポイントが、個人の賞与額となる
この方法のメリットは、評価のバラつきを気にすることなく、常に原資内に収まる仕組みであることです。これと同じことが、昇給原資の分配でも行うことができます。そのため、運用負荷を抑え、合理的に人件費コントロールしたい小規模企業こそ検討に値すべき方式と言えます。
最後に考えるべきは、移行方法です。実在者を設計した給与水準に当てはめるには、まず個人ごとに等級を割り振る必要があります。代表的には、次のいずれかの方法が考えられます。
A:等級基準見合い(等級定義に照らして相応しい等級を個人毎に格付けする)
B:報酬水準見合い(現在の各人の給与額に最も近い、又はその額が当てはまる等級とする)
実際の能力や役割に見合う処遇とするには、おそらくAが正論と言えるでしょう。ただ、こうした場合、過去に属人的な給与決定が行われてきた企業の多くでは、現在の給与額が格付け後の等級の給与範囲内に収まらず、多数の調整措置を余儀なくされるのが常です。
そういった段階的な調整を、自社で管理・運用できればいいのでしょうが、本来償却されるはずだった「調整給」が有耶無耶になっている・・・このような実態を目にすることも実際少なくありません。つまり、移行にあたっては、身の丈に合った管理できる方法であることが要求されます。
この点、Bでは等級毎の給与範囲からはみ出ることは原則生じないため、運用としては管理がシンプルです。等級定義とのズレは残りますが、これは運用後の評価に応じた昇降格により徐々に解消することになります。これが、最後のファクターの意味するところです。
以上述べてきたことは、コンサルティング現場での感覚をもとに考察したものであり、教科書的なアプローチとは異なる部分も多々あったかもしれません。あくまで小規模企業の実情を踏まえた一つの方法論として、何らかの参考になったのであれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。